今回は、脳科学や人工知能(AI)を駆使し、
長年ストレスや認知症の研究に取り組まれている
酒谷 薫氏に、
注目の成分「GABA(ギャバ)」のメカニズムや、
脳と体の驚くべきつながりについて
お話を伺いました。

酒谷 薫
元東京大学特任研究員
GABAを研究することになった背景
酒谷教授がGABAの研究に深く関わるようになったきっかけは、アメリカ・New York Universityへの留学時代にさかのぼります。
当時は、神経外傷、特に視神経を用いた研究に取り組んでおり、GABAを「抑制性の神経伝達物質」として基礎的に研究していました。GABAは神経細胞同士が情報を伝え合う「シナプス」で働く重要な物質ですが、教授はその働きを、生理学的な視点から詳しく調べていたといいます。
その頃の研究テーマは、現在注目されている「リラックス」や「睡眠」といった作用とは異なり、あくまで神経の働きを理解するための基礎研究でした。
その後、約20年前からストレスやリラクゼーションの研究を進める中で、「GABAにリラックス効果がある」という新たな知見に触れ、「自分がこれまで研究してきたGABAが、こうした健康分野にもつながるのか」と可能性を感じたことが、現在の研究につながっているそうです。
「脳に届かないはず」の疑問から見えてきた
全身をめぐるネットワーク

GABAは脳の活動を鎮め、リラックスや睡眠の質を高める効果が期待されています。しかし、かつて脳科学の世界では、ある決定的な疑問から、GABAの経口摂取(サプリメントなどで飲むこと)に対して批判的な意見もありました。
かつての疑問:
脳の血管には、有害物質が脳へ侵入するのを防ぐ強固なバリア「血液脳関門」があります。理論上、口から摂取したGABAはこのバリアを通り抜けることができません。「脳に届かないのに、なぜリラックス効果が出るのか?」
「プラシーボ(思い込み)効果ではないか?」と言われていたのです。
しかし近年の研究で、そのメカニズムを新しい視点から考えることも多く、GABAの働きを脳内だけで捉えるのではなく、「全身のネットワーク」として考えてます。
実は、GABAを受け取る「受容体(リセプター)」は脳だけでなく、腸や免疫系の細胞など、私たちの体全体にあることが分かってきました。
特に注目されているのが「脳腸相関(のうちょうそうかん)」です。口から摂ったGABAが腸にある受容体と結合すると、それがシグナルとなって神経を伝わり、脳へ「リラックスしなさい」という信号が送られます。
このように、GABAが体全体のネットワークを介して、コンディションを整えてくれるということが科学的に証明されつつあります。今や、サプリメントや食品でGABAを摂ることに効果があると考えるのは、脳科学的にもごく自然なことなのです。
※実際にお話ししている際には、GABAが脳・腸・自律神経・免疫へどのように関わるのかをまとめた概念図を用いてご説明しています。
「脳」と「体」のつながり

近年の医学では、脳の病気と体の病気を切り離して考えなくなってきました。
私の現在の研究でも、認知症や心の病気は脳だけにとどまらず、生活習慣病による動脈硬化や、他の中臓器が大きく関係していることが分かっています。
最近では、体のあちこちで起きる「炎症反応」が脳に悪影響を及ぼし、うつ病や認知症を引き起こす原因になると言われています。
驚くべきことに、GABAにはこの「体の炎症反応」を抑える効果もあるとされているのです。
つまり、GABAを上手に取り入れることで、将来的なうつや認知機能障害の予防にもつながる可能性が期待されています。
今や医学界では、脳と腸がつながる「脳腸軸」だけでなく、肝臓と脳がつながる「肝脳軸(かんのうじく)」、さらには「腎脳軸」という言葉まで使われるようになりました。GABAの効果も、こうした全身のつながりの中で捉えることが大切です。

服薬中の方はここに注意!
手軽に摂れるGABAですが、1点だけ注意が必要です。
現在、病院で睡眠剤(睡眠薬)などを処方されて日常的に飲んでいる方は、GABAの摂取を少し慎重に考えた方が良いでしょう。
どちらも脳の興奮を抑える似たようなアプローチを持つため、一緒に摂ると効果が強く出すぎてしまう(相乗効果)危険性があります。
不安な場合は、必ず主治医の先生に相談してみてください。